貴方はどんな風に暮らしたいのか?【2014年8月号掲載】

数日前、一人の読者からこんなDMを受け取りました。

「こんにちは。寄稿されたコラムを読んでから偶然にブログまで見つけ、いろんなポストを読ませて頂きました。今まで漠然としか考えていなかった我が家の『家造りの夢』が具体化できそうな気がしてワクワクしました。(中略) なにしろ門外漢なので、質問させて頂きます。我が家の『家造り』を前に、私は何から始めれば良いのでしょうか?

1.予算の確保? 2.家を建てる土地、地域を決める事? 

3.大体の間取りでもいいから考えてみる事? 4.その他?」

 

この質問に私は次のように返事をしました。

「これからどうやって暮らしたいのか、まず考えてみて下さい。『どんな生き方が幸せだろうか?』というテーマで家族と一緒に話し合い、悩んでみれば、その答えが見つかると思います」

こんな返答をしたのには理由があります。人々はそれぞれ考え方が違い、人それぞれ好みも違います。だから実際に生活しているライフスタイルも千差万別なのです。自分にとっての「幸せ」が何なのか、その答えをきちんと知りさえすれば『家造り』の出発は難しくないんです。

この連載の最初のコラムを書くに当たって「施主予備軍」の皆さんにどんな話を初めにしようか、ちょっと悩んで「イマジン、想像してみて下さい」というテーマを選びました。貴方に必要なもの、貴方によく似合うモノ、貴方を楽しくさせてくれる物、それが何なのかを考え、貴方だけのスタイルを探すのが大事なのだとも言いました。今回のコラムは、その延長線上にある話です。

 

果たして『いい家』とは何なのでしょうか?『いい家』を決定づけるモノサシは何なのでしょうか? 俗にいう『いい家』、人々の会話に出て来るこの単語が示すのは、大きくて立派で格好の良い、いわゆる『立派な家』じゃないかと思います。私たちのイメージする『いい家』とは多分、服に例えると華やかなシルクのパーティードレスだと思うんです。そのドレスを着ていれば自分がもっと格好良くなったみたいに感じられるし、他の人たちも「素敵だ」と褒めてくれるでしょう。ただ、華やかなパーティードレスを初めて着た時には満足感と喜びに溢れるかもしれませんが、次の瞬間、貴方はこんな悩み事に直面します。 

「この服着てどこに行こう? この服着て何しよう?」

そうなんです。貴方が華やかなドレスを着て頻繁にパーティーを楽しむライフスタイルの人でない限り、シルクのパーティードレスは『無用の長物』でしかありません。日常生活の中で「一番お気に入りのよく着る服」「いくら着ても飽きの来ない服」は別のものなんです。人々は長い間の経験と自らの好き嫌い、職業などを基準に「自分に似合う、気に入った服」をずっと探して服を着ています。それなのに何故、家を選択する時は無条件で『いい家』だけを想像し「自分に似合う家」を探さないのでしょうか? 

 

厳しい言い方かもしれませんが、本人にとって何の必要も無く、家族のライフスタイルにも似合わない家は『いい家』ではなくて、高いだけの『無用の長物』なんです。だから私は施主さんたちに、自分自身の幸せ、価値観、ライフスタイルを先ず探してみる事が大切だと勧めています。今までの人生と、これから生きていきたい人生の姿を思い浮かべ、その人生に「似合うもの」を中心に据えて計画を立てれば、残りの部分は自然と見当が付くものなんです。どこの土地がいいのか、どんな構造の家にすればいいのか、どれだけの予算が必要なのか、全ての答えが出るんです。

 

服を買う時、マネキン人形が着ている服をそのままセットで買ってくる人が、思ったより沢山います。試着をした時に店員さんに「お似合いですよ」と言われると、ただのお世辞だと知りながら、その服を買ってしまう人も沢山います。実は、この現象には心理学的な理由があると言います。

本人が『関心があるけど良く知らない』と思う分野において「何かを決定する」行動をする時、人々は恐怖心を感じると言います。様々なパターンを考慮した重大な選択を迫られる、いわゆる「責任を取らなければならない決定」を無意識の内に避けようとします。だから前もって用意された「人気商品」や専門家の助言にすがって「私が判断を間違えたんじゃない」と自らを弁護できる口実を探すんです。

こんな「何かを決定する」時の『無意識的な心理』からすると、私が施主さんたちに薦める方法論は余りにも負担が大きく、困惑させられる提案なのかも知れません。しかし『避けてしまう』という無意識から脱皮して『自分で考え、自分で選択する』という意図的な生き方を実践すれば、自らの人生の主人公になれるんです。そして、その喜びは何よりも大きなものなんです。

 

今この国(韓国)で『家造り』を夢見て計画している数多くの「施主予備軍」の方々の胸には、多分「より良い方向への変化」に対する渇望があるはずです。だからこそ『マンション』という生き方から抜け出し『戸建て住宅』という生き方を、意図的に選んだ筈なんです。そして、もし私の仮説が正しければ、あなたは既に「選択の岐路」に立っています。片方は、今まで通りに「あなたにはこんなものがお似合いです」と、あなたの背を押してくれる誰かの『おすすめ』をナビゲーション代わりに『付いて行く』世界に通じる門です。もう片方は『本人の責任なんだから、好きなように選択して』という世界、最初は「自分自身が何を望んでいるのか」を知る事さえが難しくて道に迷ってしまうかもしれない、そんな世界に通じる門なのです。

 

どちらか一方を選択したからと「成功する確率」が画期的に高くなったり、成功が保証される訳では、絶対にありません。しかしこの選択自体が、貴方にこう問いかけているのです。

「貴方はどんな風に暮らしたいのか?」

選択は、貴方次第です。