数多くの施主さんたちに会いながら最近実感している変化が幾つかあります。 求めている住宅のスタイルや嗜好の変化は勿論のこと、「家を建てよう」と決心した理由や動機が変わったとも明確に感じます。そして、大きなトレンドとして考えた時、ほんの数年前と比較しても施主さんたちの平均年齢が下がっているという事実を否定できません。彼らは既存世代の施主さんと同じように悩み、オンライン空間を通じて多くの情報とイメージを探索しスクラップしています。彼らの世代は相対的に幼い頃から「検索する」という作業に慣れているので、そんな作業や努力を「生活の一部」、当然の事のように考えています。 しかし、そんな施主さん予備軍の人たちの努力が、逆に「毒になっている」場合も頻繁に見受けることが出来ます。彼らがこのような袋小路に入り込んでしまった理由は一体何でしょうか?「いい家」を建てる為に一生懸命資料を検索することが、実は施主さんにとって「得よりも損」になってしまうのには明確な理由があります。そしてそれは誰か一人の、個人の責任ではありません。
その理由について説明しましょう。
最初に、写真や動画を通じて得られる「視覚的なイメージ」は、文章を読んだり音で聞いたりする時よりも遥かに多くの情報を内包していて、かつ簡単に伝達されます。そして二つ目に、メディア(媒体)の特性を説明する時に使われる概念に「クールメディア(Cool media)」と「ホットメディア(Hot media)」という概念があります。この二つの属性を区分するキーワードは「情報に接する人の能動的な態度」と「想像力が必要な程度」です。代表的なクールメディアとして挙げられるTVは、視覚と聴覚を総動員しながら全ての情報を私たちに伝達しようとする属性を持っているので、TVを見ている人は「非常に受動的な立場」であっても充分にその情報を吸収し、活用することが出来ます。つまりTVは「私たちに何の想像力も要求せず、全ての説明を勝手にしてくれる」親切なメディア(媒体)だということです。その反面、代表的なホットメディアである印刷媒体やラジオの場合は、私たちに「情報を受け入れようとする積極的で能動的な態度」を要求します。この二つの事実が私たちに示唆している教訓があります。写真のような参考資料を熱心に探す事自体は良いのです。視覚的なイメージが持っているメディア(媒体)の特性のお陰で、一見しただけでもその内容を簡単にその把握することが出来ます。それは否定できない事実です。しかしその反面で、そのメディア(媒体)の特性のせいで私たちは「より積極的な態度でその情報を活用」することが出来ず、私たちの想像力を動員しようともしなくなっているのです。数多くの施主さんたちは気に入ったイメージを出来るだけ沢山スクラップし、「家づくり」の最初の一歩で建築家や工務店の担当者の前でその資料を広げます。しかし、大部分の場合においてその結果は芳しいものではありません。現実的な要件・環境の為に実際の設計には反映できない場合が殆どであり、その努力にも拘わらず「期待していたイメージ」を導き出すことが出来ず諦めてしまう場合もあります。中には、あまりにも欲張りすぎて「絵に描いた餅の詰め合わせセット」のような家を建てる為に多額のお金を使う人もいます。このような「空虚なエンディング」を最初から予想していた施主さんは、この世に唯の一人として居なかった筈なのに、です。
それでは、私たちはどうすれば良いのでしょうか? 能動的な態度と想像力が必要だと言うけれど「どうやって、何を想像すれば」失敗を経験することなく、望んだ結果を得ることができるのでしょうか?
「理由を想像してみよう。理由を想像できるように、目の前の現象を分解し、もう一度組み立ててみよう」
これが、私が見つけた方法です。あなたは気に入った写真をスクラップする作業は今まで通りに続けながら、そこに新しい二つの習慣だけを追加すればいいんです。
一つ目は、その写真を気に入った理由、つまりあなたの心が動かされた理由が何だったのか、を考えてみることです。その理由が色彩なのか、形態なのか、質感なのか、それともそれらの要素たちのコンビネーションなのか、を考えてみることです。「この空間は、この軒下の空間が気持ち良さそう」「このキッチンの配置は使い勝手が良さそうだ」といったように、あなたが自分自身に説明するつもりで写真をスクラップしながら考える習慣を身に付けてください、という意味です。自分自身の判断基準、選択の理由を細分化し、もう一度組み立てて見ることで「自分自身が望んでいるもの」を客観的に分析してみること、それがあなたにとって必要な第一歩、一つ目の習慣です。
そして、二つ目の習慣は「彼らがその答えを出した理由を想像してみる」ことです。この地球上に存在する全ての建築物は、自らに与えられた問題に対して施主さんや建築家が答えを出した「答案用紙」です。それなのに私たちは「答案用紙」そのものだけに目を向けて「いいね」「気に入った」「カッコいい」と評価しているのです。しかし二つ目の習慣を身に付けた時、見えてくる世界は明らかに変化します。
「彼らがそのような答えを選択するしかなかった理由は何だったのだろうか? 短所を補おうとして、発想の転換に繋がったのかな?」
あなたの目の前にある「答案用紙」の答えを分解し、再び組み立てて見ながら「彼らがそうした理由」を探す事、これが、あなたが身に付けなければならない二つ目の習慣なのです。ここまで説明した内容を読んでも、この二つの習慣を身に付ける必要性を感じないとか、その作業を拒否すると言うのならば、それはあなたには想像力と論理的な思考能力が欠けているという事実を自ら立証しているようなものです。
「家造り」という作業を別の言葉で言い換えれば、それはまるで「完璧な答えもなく、正解もない試験問題を解く作業」とも言えます。限られた予算と限られた床面積、問題だらけの建設予定地の要件など「家造り」の環境はその度に違います。いつも何かが新しく、何かが変化した応用問題が主題される、それが「家造り」のもう一つの姿なのです。手を動かし、その目で確認するという物理的な行動が必要なのではありません。新たな苦労をする必要もありません。ただ、あなたの頭と心の中に新しい習慣を二つだけ付け足せばいいんです。その小さな変化が「大きな結果の違い」をもたらしてくれる筈です。

