IMAGINE 【2014年1月号掲載】

想像を通じて向かい合う家造りの真実

IMAGINE

 

コラムの連載を引き受ける事になって最初に『どんなテーマから始めたらいいかな?』と、しばらく考えてみました。そして、そんな私の脳裏に浮かんで来た単語が『IMAGINE』でした。このコラムの読者のほとんどは、恐らく今現在施主さんであるか、今後一戸建ての住宅に住んでみたいと夢見ている施主さん予備軍の方々だと思います。だから、あなた方に言いたいのです。

「IMAGINE、想像してみて下さい」と。

 

あなた達の夢がどこでどうやって始まったのかは、それほど重要ではありません。『絵に描いたような素敵な家』や『子供たちが走り回って遊べる庭』を手に入れたくて、あるいは都市のホコリだらけの空気や交通渋滞、上下階間の騒音問題など日常生活の中であなたを苦しめている数多くのストレスから解放されたくて、なのかもしれません。また他の誰かにとっては、失ってしまった健康を取り戻すための切羽詰まった選択なのかも知れません。

しかし残念な事にそんな理由なんては、幸せな家造りやその家で享受する暮らしのクオリティーとは何の関係も無いんです。上に記したような理由で家を建てた施主さん達は、入居したその日から悩み始め、後悔し始めます。

「こんな筈じゃなかったのに…」

「私が想像してたのと違うんだけど、どうしよう?」

こんな事になってしまう理由はとても簡単です。家というものは、それを手に入れたからと言って望みの物を手に入れられる『魔法の箱』じゃないんです。元々家というものはその家の住む人々の暮らしを包む『器』なのであって、家を建てそこに住むこと自体が目標であっては駄目なのです。だから私はあなたに丁重にお勧めするんです。

「IMAGINE、想像してみて下さい」と。

 

どこで、どんな環境で、どんな暮らしの時間を過ごしたいのか? 子供たちや家族、友人やご近所さん達と共にどんな暮らしの風景を描きたいのか? どんな暮らし方をすれば、自分と周りの全ての人たちが一番幸せになれるのか? 

そんな事を想像してみて欲しいのです。

 

そしてあなた方が、考えただけでもウキウキする様な暮らしの風景、楽しい日常の輪郭を見極めた時に、やっと幸せな家造りが可能となり『幸せな暮らし』への扉が開かれるんです。そうやって思い浮かべた『暮らしの風景』をモノサシに世界を見直してみると、そこには今までどんなに努力しても見えなかった数多くの真実が見えてきます。それは例えばこんな事です。

 

今までひたすら格好良く見えた家々が、全然違うものに見えてきます。写真の中の家々のデザインや工法が、この国の気候や条件に合っているのか、自分と家族の生活パターンに見合ったものなのか、考える様になります。派手ではないけれど使い勝手の良いデザインなのか、それとも格好良く見せる為に使い勝手を犠牲にしたデザインなのか見分ける事ができる様になります。これが一つめの真実です。 

 

それから、多分あなた方は新築する自宅に有ったらいいなと思うアイテムについて数多くの誘惑に駆られているのではないでしょうか。実際のところ『有ったら良さそうだけど全然必要のない物』と『本当に必要な物』を見分けるのは、並み大抵の作業ではありません。しかしあなた自身が望む暮らしの風景を想像し始めると、その時から状況は変わり始めます。新しいモノサシは色んな物の優先順位をいとも簡単に決めていきます。あなた方にとって本当に必要な物の優先順位を知る事で、それまでの果ての無い苦悩は終わりを告げます。これが私のお話しする二つめの真実です。

 

もう一つ、家造りの過程で必ず共同作業をする事になる設計者(建築家という単語の代わりに設計者と呼ばせてもらいます)と施工業者についても真実が見えてくるようになります。あなたが出会った設計者達が本人のポートフォリオを気にするだけで、あなたが思い浮かべる暮らしの風景に関心が無ければ、その設計者が提案する結果はたかが知れています。まるでアートの様に格好をつけているだけで『暮らしの器』として適したものではないでしょう。

設計者の役割は、ある意味とても単純なものです。あなた方が思い浮かべた内容を共有し、あなた方が想像した以上の提案を実際に図面に描き出してくれる人、それが設計者なのです。

 

同時に、信用できる情報が無かったり不足していたりしていつも悩みの種だった施工業者のチョイスも自然と可能になります。あなたが望む暮らしの風景を一緒に造って行ける会社なのかどうかを考えてみれば、その答えは自ずと出てきます。これから建てる新居でどんな暮らしをしたいのか、熱心に説明するあなたに向かって 

「そんな話私たちにしないで、どうやって建てるのかだけ決めて下さい」

と応える業者にどんな判断を下すべきなのか、あなたにも解っているはずです。

 

家造りというものは、未来に向けて自分なりの暮らしを創り上げていく作業なんです。心の底奥深い場所に潜んでいた『本当に望んでいた暮らしの風景』とその方向性を見つけ出し、それだけをただ一つのモノサシとして選択と判断を繰り返しながら輪郭を掴んでいくものなのです。だから、あなたの思い浮かべる暮らしの風景に共感し、その思いを共有できる設計者と施工業者に出会ってこそ成功という結果を得る事ができるのです。

今までどれほど一生懸命探しても見つからなかった隠し絵の様な真実を、あなたはこれから探し出さなければなりません。だから私は、あなたにお勧めするんです。

「さあ、素敵な想像を始める時ですよ」と。